食品の安全とリスクのはなし

食品安全に関することやリスクコミュニケーションについて考えていることを書いています。

食品添加物の不使用表示に関するガイドライン案に関する意見募集の結果について

表記の通り、食品添加物の不使用表示に関するガイドライン案に対するパブリックコメントの結果が公表されました。

 

私自身はこのガイドラインに反対する要素はありませんでした。反対の意見を述べている方々は基本的に添加物が危険であるから、それを避けるための無添加表示は必要である、それは消費者の知る権利であるというスタンスのようですね。
 
無添加の商品には優位性があるという考えは、そのまま食品添加物が危険であると言っているのに等しいのです。これが問題なのです。ありもしない添加物の危険を恐れる消費者がいて、その消費者のミスリードを利用してマーケティングしたい事業者もいて、両者が歪んだ市場を作り出しているのです。反対意見を表明している方々は理解していないようですが、今回のガイドラインはこの間違った考えと状況をただすことがスタートラインになっています。無添加表示を放置することは食品添加物が危険であると間違ったメッセージを出し続けることになってしまうのです。
 
容器包装された食品であれば食品添加物が使用されているかは一括表示を見れば確認することができます。無添加表示は単にそれを強調しているにすぎません。消費者は十分な情報を一括表示から手に入れることができます。あなたが賢明な消費者であるならば、はじめからこんな無添加表示は必要ないのです。
 
とはいえ、一括表示上で添加物の記載がなかったとしても、実際には加工助剤やキャリーオーバーによって使用されていても、(最終製品に残っていないので表示する意味がないので)表示されていないケースがあります。
 
ここに消費者にミスリードして欲しいという事業者側の下心が加わります。原材料を含めればほとんどの加工食品で何らかの添加物が製造工程のどこかで使用されています。それにもかかわらず、(健康上全く意味のない)無添加を強調表示することは消費者を誤認させる行為である。というのがこのガイドラインの基本的な考えです。
 
そもそも添加物が危険、できれば避けたいという考えがナンセンスなのです。添加物が通常使用される量で人体に危害が及ぶことはあり得ません。添加物に限らず、なにかの危険論はたいていの場合、量の概念を無視しています。
 
例えば塩は食品ですが、これを両手いっぱい一気に飲み込んでみたらどうなるでしょうか。恐らくは高ナトリウム血症で命を落とす可能性が高いです。塩をいっぺんにそんなに飲み込めるはずがない、というのであれば水はどうでしょう。実は水も10Lほど一度に飲み干すと水中毒を起こし今度は低ナトリウム血症によって命を危険にさらすことになります。夏の暑いなか、1Lのペットボトルを飲み干すことはあるでしょう。そのたった10倍程度で命を落とす可能性があるのです。
 
つまり添加物が危険なのではなく、どんな食品でも食品添加物でも極端な量を摂取すると身体に悪影響があるということです。食品添加物があなたに悪影響を与える程の量を食事から摂取することは事実上不可能なのです。当たり前ですが、食べ過ぎそのもの方があなたの健康に悪いことは明らかです。
 
そんな些末なことを気にするよりも、素直に豊かな食文化、食生活のある日本に生まれ育ったことをもっと喜び、楽しんだらいいのにな、と私は思います。

本当はコワイ?酵素サプリメントの話

ドラッグストアに行くと、酵素サプリメントのコーナーは相変わらずとても充実してますね。ブログ等の紹介記事によるとダイエットはもちろん、便秘に美肌、自律神経安静まで『サポート』するというのですから驚きです。それらの記事にある酵素栄養学によると、身体の機能を維持する働きを持つ酵素の作られる量は一定であるため、不足しないよう食物から摂取する必要があるそうです。

 

つまり、最近の酵素サプリメントから摂った酵素は直接身体中の細胞に行き渡って身体の機能を助けてくれるということなんですね。

 

でも、ちょっと待ってください。みなさんは本当に酵素の性質をご存じでしょうか。ひと言で酵素といっても、様々な種類や性質の酵素があります。よく知られているダイエットに役立ちそうな消化酵素の他に制限酵素と呼ばれるものがあります。

 
この制限酵素には2本鎖のDNAを切断する機能があります。バイオテクノロジーの分野ではなくてはならないもので、DNAの特定の配列だけを切断することができます。
 
バイオテクノロジーの実験は試験管の中だからいいのですが、コレもし私たちが口にしてしまったらどうなるんでしょう。
 
DNAは細胞の核にあります。もし、細胞が酵素を取り込んでしまって核の中のDNAが切断されてたらどうなってしまうのでしょう。大丈夫なのでしょうか。大丈夫なはずありません!!核が破壊された細胞は機能を失います。つまり細胞が死んでしまうのです。
 
沢山の酵素サプリメントが販売されていますが、本当に安全なんでしょうか。危険な制限酵素が含まれているでしょうか。もしかしたら、酵素サプリメントでダイエットって、実は私たちの細胞がどんどん死んでしまった結果だったとしたらどうしますか。
 
 こんな危険なサプリメントを販売して金儲けをしているとしたら、サプリメントメーカーは絶対に許せないと思います!(怒
 
安心してください。上記はほぼデタラメです。酵素サプリにはよくも悪くも効果はありません。酵素サプリメントがいかにナンセンスであるかをご説明するための作文、ネタです。
 
  • 酵素サプリメントにダイエット効果は一切ありません。
  • 食べた炭水化物や脂肪分を酵素が食べてくれるなどということはありません。(多少消化はよくなるかも知れませんが、摂取したカロリー自体は減りません!)
  • そもそも、「酵素栄養学」というものがインチキ、いわゆるニセ科学です。
  •  身体を維持するのに必要な酵素が不足することはありません。(もし、酵素が不足するとしたら、あなたは重度の栄養失調でしょう。病院に行くべきです)
  • 酵素サプリを食べても、酵素はちゃんと消化、吸収されます。酵素を直接補給するなどできません。
  • もちろん、体中の細胞に届くことはありませんし、体内の機能を助けることもありません。
 
改めて、酵素というのは栄養素ではありません。生物でもありません。「生きた酵素」がたっぷりふくまれる・・・などの説明をよく見かけますが誤りです。酵素は機能性たんぱく質で、私たちの身体を維持するのに必要な反応を進めてくれる触媒として機能する物質です。繰り返しますが、生物ではありません。
 
酵素サプリの紹介ブログでは、体内の代謝酵素を増やしてダイエットになどといった記述がみられます。まず代謝酵素が意味不明です。代謝とは私たちが生命を維持するために、外から取り込んだ物質を使ってエネルギーを得る一連の反応です。生命活動そのものといってもよいくらいなので、反応に関わる酵素も無数にあり特定の代謝酵素というものは存在しません。
 
アミラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼといった消化酵素はどうでしょうか。これらを含むサプリメントを食事と共に摂取すれば、もしかしたら消化を促進してくれて胃もたれを軽減する等の効果があるかも知れません。実際にそのような医薬品もあります。しかし、当たり前ですが、消化を助けてくれるだけで食べたカロリーが減ることはありませんので、ダイエット(減量)の効果は期待できません。
 
酵素栄養学というのは、アメリカの医師エドワード・ハウエル氏が提唱したもので体内で作られる酵素(潜在酵素)には限りがあり、消化酵素等を節約し食品から補充することが健康につながるとする説です。酵素の補給のため非加熱食品や発酵食品の摂取が勧められています。
 
既に述べた通り、食品中の酵素は胃や小腸で消化、吸収されるので摂取した酵素が人の健康に寄与することは考えられません。生まれながらに決まった量があるという潜在酵素に至っては、酵素栄養学独自の概念で栄養学、生化学の教科書にそのような言葉は存在しません。もちろん、潜在酵素が身体のどこにどれだけ貯蔵されているのか確認した研究はありません。
 
酵素サプリメントを販売するためのマーケティングツールとして、非常に優れた酵素栄養学ですが科学的には完全にインチキです。困ったことにこのインチキを利用して売名と金儲けを行う医師が少なからずおられます。基本的に医師の大多数の方は栄養学や食品の安全性のことをほとんど全く理解しておられません。お医者さんがいい加減であるという話ではなく、単純に食について専門外なのです。なので、医者が勧める○○食材、○○食事術の類いの情報からは距離をおくことをお薦め致します。
 
 
 

日本とEUのアレルギー表示の違いについて

前回日本とEUの栄養成分表示の違いについて書きましたので、今回はアレルギー表示について触れてみたいと思います。

 

 EU食品表示は次の文書に定められています。

https://eur-lex.europa.eu/legalcontent/EN/TXT/?qid=1530180983115&uri=CELEX:02011R1169-20180101

REGULATION (EU) No 1169/2011 OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL
of 25 October 2011

 アレルゲンに関する記述はANNEX IIに以下のように14品目が指定されています。長いので、例外の記述は省きます。

1. Cereals containing gluten, namely: wheat, rye, barley, oats, spelt, kamut or their hybridised strains, and products thereof, グルテンを含有する穀物

2. Crustaceans and products thereof; 甲殻類

3. Eggs and products thereof; 卵

4. Fish and products thereof, 魚

5. Peanuts and products thereof; 落花生

6. Soybeans and products thereof, 大豆

7. Milk and products thereof (including lactose), 乳

8. Nuts, namely: almonds (Amygdalus communis L.), hazelnuts (Corylus avellana), walnuts (Juglans regia), cashews (Anacardium occidentale), pecan nuts (Carya illinoinensis (Wangenh.) K. Koch), Brazil nuts (Bertholletia excelsa), pistachio nuts (Pistacia vera), macadamia or Queensland nuts (Macadamia ternifolia), and products thereof, ナッツ

9. Celery and products thereof; セロリ

10. Mustard and products thereof; マスタード

11. Sesame seeds and products thereof; ごま

12. Sulphur dioxide and sulphites at concentrations of more than 10 mg/kg or 10 mg/litre in terms of the total SO 2 which are to be calculated for products as proposed ready for consumption or as reconstituted according to the instructions of the manufacturers; 亜硫酸

13. Lupin and products thereof; ルピナス

14. Molluscs and products thereof. 軟体動物(イカ、タコ、貝類)

 

マスタードや亜硫酸等日本では馴染みのないアレルゲンが含まれていて興味深いです。アレルギーを引き起こす食材は、その地域毎の食習慣に大きく影響を受けるため当然ながら日本とEUでは表示すべきアレルゲンが異なります。セロリとマスタードでアレルギーだとポトフが食べられませんねw

 

  EUからの輸入品の表示をする際に注意が必要なのが、魚、ナッツ、軟体動物の様に範囲が広い品目になります。

 ナッツの範囲は、アーモンド、ヘーゼルナッツ、くるみカシューナッツ、ペカンナッツ、 ブラジルナッツ、ピスタチオ、マカダミアナッツでとても広いです。アンダーラインしたものは日本でも推奨表示となります。

 因みにアメリFDAでは、ナッツはtree nuts(アーモンドくるみ、ペカンナッツ)を指します。

 

私は現在輸入商社でアメリカとEU両方の商品を扱っているのですが、本当に紛らわしくて未だに確認に手間取っています。

栄養成分表示のEUと日本で異なる点

食品表示法が施行されて旧表示が認められる経過期間が来年の3月末に迫ってきました。食品表示に関わる仕事をしている品質管理の方は、最終的な確認で忙しいかもしれませんね。

 

ところで、私はヨーロッパから輸入した食品を扱う機会が多いのですが、食品表示にかかる規定が日本と異なる点がいくつかあります。その中でもサプライヤーとやりとりをしていて引っかかる点が炭水化物と食物繊維の数値でした。

Energy                          238

Fat                                8.9

of which saturated fat   1.0

Carbohydrates              14.0

of which sugar              1.7

Fibre                             11.0

Protein                          20.0

Salt                               1.0

 

サプライヤーから上記の様にデータが提示されます。Carbohydratesは通常であれば炭水化物指すはずです。そしてFibreが食物繊維ですね。日本の栄養成分表示では炭水化物=(糖質+食物繊維)ですので、

 

炭水化物14.0=(糖質3.0+食物繊維11.0)

 

となります。しかし、この数値でカロリーを計算すると194で238と差が大き過ぎると思います。計算式は以下の通り。熱量(kcal/100g)=たんぱく質×4 + 脂質×9 + 糖質×4+食物繊維×2

 

実はEUではCarbohydratesは炭水化物ではなく糖質を意味します。炭水化物という概念がないというのが正しいのかも知れません。なので正しくは、

炭水化物25.0=(糖質14.0+食物繊維11.0)

 

となります。数値として意外と大きな差となってしまうので注意が必要です。このEUと日本の違いを認識している人は余りいないと思われ、EUからの輸入食品を扱う方は、ぜひこの機会に表示の再確認をしてみてください。

 

 ちなみに、EUの表示の規定は以下の文書で確認できます。

https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/PDF/?uri=CELEX:32011R1169&from=EN 

英語で長文なので、P.42のANNEX IのSPECIFIC DEFINITIONSの箇所を確認頂くとよいかと思います。

7. ‘carbohydrate’ means any carbohydrate which is metabolised by humans, and includes polyols;

8. ‘sugars’ means all monosaccharides and disaccharides present in food, but excludes polyols;
9. ‘polyols’ means alcohols containing more than two hydroxyl groups;

12. ‘fibre’ means carbohydrate polymers with three or more monomeric units, which are neither digested nor absorbed in
the human small intestine and belong to the following categories:

 

 

 

 

品質管理のお仕事(クレーム対応の実例)

信じられない程更新をサボっていました。

今回は実際にあったクレームの実例を紹介したいと思います。ただし、会社の内部情報でもある製造上の問題があったケースをむやみに公開する訳にもいかないので、実際にはクレームではなく、お客様の勘違いや誤解だった事例をご紹介したいと思います。

 

 まず、営業からの連絡が以下の通り入りました。

「トマトの缶詰を使って調理をしていたら、フライパン上から異物を発見した、というお申し出が購入したスーパーにありました。至急その異物が何であるかを調査して欲しいとスーパーより依頼がありました。」

 

(フライパン上……この時点でお客様のところで何か入った可能性が高そうだな、と想像したりします)

 

届いた現物がこちら。

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大きさは1cm程です。何だかお分かりになるでしょうか。色や吸湿した感じ、結晶がたくさん含まれているところで、私は一目見てピンときました。料理をよくする方であれば難しくないと思います。

 

答えはいわゆるコンソメキューブです。試しに少量をお湯に溶かしてみた所、ちゃんとスープになりましたw  アミノ酸の分析も行いたいところでしたが、残念ながら輸入商社である弊社にはラボはなく、ここまで調査は終了です。

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 つまり、お客様が自分で味付けのために加えたコンソメキューブを異物と勘違いしお申出をなさったというオチでした。調理中に何かが混入して異物混入としてお申し出を頂くことは実際よくあるのですが、自分で加えた調味料を異物と勘違いしたこのケースはほとんど自作自演でさすがに苦笑いするしかありませんでした。もちろん、お客様に悪意はありません。本当に勘違いをなさっていただけでした。

 

最終的に上記の確認内容を報告書にまとめ、スーパーに提出します。スーパーは私の報告書を元にお客様にご説明してようやくクローズになります。お客様の勘違いであっても、かかる手間暇は品質に問題があった場合と大差はありません。

 

今回は一目見て判る簡単なケースでしたが、ラボがないオフィスで毎回あの手この手で調査確認をします。とても難しい作業ですが、品質管理としてのスキルと経験を最大限発揮させることができる仕事でもあります。

 

フルーツブランデーのメタノール濃度

市販されているブランデーには飲用と製菓用の2種類があることをご存じでしょうか。裏ラベルに「ブランデー」または「ブランデー(製菓用)」の表記があり区別されています。

 

一般的には、製菓用は低級グレード品であるかの様に認識されているケースが多いのですが、両者の違いはメタノールの含有量になります。食品衛生法において、アルコール飲料中のメタノール濃度には基準が定められています。基準値は1mg/ml(1000ppm=0.1%)未満となります。

 

飲用として輸入販売する場合は、メタノール濃度が0.1%未満であることが確認されている必要があります。こうした確認を行っていない、又は0.1%を超えることが予め判っている場合にはラベルに「ブランデー(製菓用)」と表記する必要があります。

 

製菓用として香味付け等に使用する限りにおいては、摂取量が少ないため健康影響はないであろう、ということです。でも、これ少し考えれば分かりますが完全に建前です。実際には製菓用のブランデーが酒販店やレストランに卸されており、飲用されています。

 

でも、今後はこうしたことは出来なくなるかも知れません。先日、製菓用のブランデーを飲用として提供していたあるホテルで、この事が社内的に問題になったそうです。ホテルからは納入業者に対して問題点の指摘と、改めて飲用適のブランデーの引き合いがあったそうです。しかし、最終的には飲用適を保証することができないため、この納入業者はこのホテルだけでなく、客先在庫にある製菓用ブランデー製品の回収を現在行っています。

 

業界的には昔から行われていた慣習なのだと思いますが、概ねこの納入業者の判断は私自身も妥当だと思いました。ただ、これまでの実績から健康被害は考えられないので、回収まで必要かは難しい問題ですね。大企業の系列企業としては、コンプライアンス上やむなしとは思います。

 

実は私の勤務する会社でもグラッパ(品目はブランデー)を取り扱っており、同じ問題を抱えております。全社的な方針はまだ決まっておりませんが、今後はメタノール濃度の検査を毎回確実に行って適合確認できる製品を除いては、製菓用であることを改めてアナウンスしての販売になるでしょう。事実上の販売自粛になるので、元々取扱量が少ないグラッパやブランデーは、ほとんどの製品で在庫がなくなり次第、終売になってしまうかも知れません。

 

あまり品質上の問題が起こらない酒類にあって、さらにマイナーなグラッパについてはあまり注意を払っていなかったため、対応が後手後手なっており私自身ちょっと反省をしています。

 

ところでなぜ、ブランデーやグラッパメタノールが含まれているのかというと、原料となる果実類に含まれるペクチンに由来します。ペクチンのメトキシ基が、果実が熟する過程で生合成するペクチンエステラーゼによって加水分解されることで生成します。

 

エチルアルコールメタノールは共沸化合物であるため、単式蒸留では分離除去を行うことができません。なので、フルーツを原料とする蒸留酒ではメタノール濃度が高くなってしまうのです。それに対して穀物を原料とするウイスキー等ではこうしたメタノール濃度の上昇はありません。

 

その毒性はかなり高くて、日本でも戦後粗悪な密造酒に混入していたメタノールで死者がでていました。最近でも海外で同様に密造酒によるメタノール中毒での死亡事故が度々起こっています。ヒトでの致死量は個人差が大きいものの30~100ml以上で10ml程度で失明する恐れがあるようです。(http://jsct.umin.jp/page051.html )

 

グラス1杯を100ml程度とすると、0.1ml程度メタノール摂取になるということで、1杯飲むだけで失明の恐れのある10mlの100分の1になってしまう訳です。イタリアでは普通に飲まれているとはいえ、やはり飲用でないものを飲むのはちょっと危なっかしいく感じますね。

 

追記

関連通知:

昭和29年7月15日付け衛食第182号「有毒飲食物等取締令の廃止について」及び、昭和60年1月31日付け衛検第42号「酒精飲料中のメタノール含有量について」

 

イタリアのサプライヤーから、イタリアのメタノール基準は4400ppmであることを教えてもらいました。

 

 

安部司と同レベルのトンデモ本 :「外食の裏側」を見抜くプロの全スキル、教えます。

はてなに引越したので、少し前に書いたエントリの再投稿です。

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あんまり書いたことないですが、あまりに酷い内容の本がありましたので、記録として書評を書いておこうと思います。

 

「外食の裏側」を見抜くプロの全スキル、教えます。/河岸宏和/東洋経済新報社

 

結論から言うと、一般の方が読む価値は全くありません。例外として、私のように食品安全に関わる人間がトンデモ本の参考として読む、ということはあるかも知れません。 内容的には外食産業は、「国産」「無添加」「手作り」であるべきで、それ以外は偽物、まがい物であり、それをおいしいと言って食べている味音痴なあなた方にプロである私が本当のことを教えてあげましょう、というもの。文中に何度かお客は馬鹿じゃないと、述べていますが著者である河岸氏が一番読者を馬鹿にしていると私には感じられます。

 

本来であれば批判する価値もないものですが、東洋経済ONLINEで提灯記事が掲載されて真に受けている方をTwitter上で実際にみかけてしまったので、きちんと批判をすることにしました。というか、突っこみ所が多すぎてTwitterでは書き切れず、長文となってしまいました。 私がこの本をトンデモであると断ずる理由は、

●不正確な記述:内容に不正確又は論理的にあり得ないことが記述されていること。

●印象操作:通常問題にならない事を強調し、恐怖を煽る記述が多数あること。要はだから何?ということ。

●取材不足:批判しているチェーンへの取材をせず、著者の憶測で記述されていること。

 

私自身一個人の立場で取材はままなりませんが、書籍を出版し批判を展開するのであればそれ相応の取材はすべきではないでしょうか。著者はチェーンや店名を伏せることで好き放題の記述をしている点が卑劣です。著者は特に大手外食チェーンで一般的なセントラルキッチンを忌み嫌っているのが読み取れます。その結論ありきなので、随所に強引な(あり得ない)論理展開がなされ、またプロであれば当然知っているであろうことを意図的に無視しています。当然内容は結果的にデタラメとなります。また、一般消費者のよく分からないけど不安、という心理を最大限利用して煽りたてます。その手法は、「食品の裏側」で有名な安部司氏と共通するもので、強く嫌悪感を感じます。 不正確な記述と印象操作とを別々に指摘しようと思ったのですが、あまりに突っこみ所が多かったので一緒にしました。

 

●不正確な記述と悪質な印象操作

引用 007p かつて「中華料理店症候群」いうのが騒がれたことがあったでしょう

早くも7ページ目でこのデタラメです。美味しんぼを含むトンデモ系でさんざん使い古されたネタで、著者の悪意が明らかです。 中華料理を食べたアメリカ人が食後に、眠気、顔面の紅潮、掻痒感、頭痛、体の痺れそして軽度の背中の無感覚等の症状を訴えたことから、チャイニーズ・レストラン・シンドローム(中華料理店症候群)と呼ばれるようになったものです。現在までに多くの試験が行われ、関連は否定されています。 http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/8282275 俗説というか、都市伝説の類いです。食品業界を知り尽くしたプロがこの事を知らないとは考えられません。つまり、事実と異なることを意図的に記述していると考えられます。

 

引用 010p 冷凍品をチンしただけ。チーズはニセモノの「チーズフード」(後述)。かなり小麦粉で増量している。

ピザが冷凍品なのは確かでしょうが、レンジでチンはどうでしょうか。業務用の両面グリルで焼けば、冷凍品でもかなりおいしく仕上がります。チェーン店だからこそ、簡単でおいしくするための設備を導入するはずですが。

 

あと、チーズフードについては、ほぼ間違いなくデタラメです。以前業務用の冷凍ピザの市場調査のため、いろいろ買い集めをしましたが、チーズフードなる原材料を使用している製品にはお目にかかれませんでした。業務用製品を扱う読者がいないと高をくくっておられるのでしょうか。スーパーで探してみても、製品はおろか、原材料名としてもなかなかみつかりません。一部のチーズ入りソースで名称をチーズフードとしている製品がある程度のようです。

 

引用 011p レタスの端が茶色く変色しているでしょう。1日ではここまで茶色くならない。2日以上経っていると思う。

管理が悪ければ、1日でも茶色くなります。レタスが2~3日前に切ったものと記述されているのですが、スーパーのカット野菜の消費期限をぜひ確認して頂きたいですね。ほとんどがD+2かD+3で設定されている思います。カット野菜はカットしてからパックして、低温でいかに早く店頭に並べるかがポイントです。セントラルキッチンから外食の店舗も一緒です。よほど売り上げ予測が外れるようなことがなければ前日か当日にカットした野菜が店舗で提供されるはずです。どういう発注管理をすれば2~3日前にカットした野菜が提供されるというのでしょうか。ちなみに、スーパーのカット野菜がすぐ茶色くならないのはきちんと密封包装されているからです。

 

引用 p043 長期間輸送するので、その間に菌が繁殖しないように過剰ともいえるほど加熱がなされます。こういう食べ物には、「おいしさ」も「栄養」も残っていません。

過剰な加熱はしません。エネルギーの無駄で、その分余計に経費がかかり原価に響きます。包装形態、輸送経路に対して必要な加熱殺菌を行います。 もちろん、レトルト殺菌した場合は、それなりに熱ダメージはあります。でも、だからといって、レトルト食品はすべておいしさも栄養の残ってないのでしょうか。そんな訳ありませんね、おいしいレトルト食品がたくさんありますので、これも悪質な印象操作です。 そもそも多くの場合、素材となる加工原料は新鮮なまま急速凍結されて輸入されます。加工によって一部栄養は失われますが、それは店内調理でも一緒です。近年急速凍結の技術は非常に進歩しており、おいしさも栄養も、よほど良い素材を適切に調理する技術がなければ、冷凍品に簡単には勝てないのですよ。

 

引用 052p カット野菜は、「消毒液」(次亜塩素酸ソーダ)ジャブジャブ洗われていて、味も栄養も全部流れ出してしまっています。

これも事実と異なります。というかデタラメです。結論としては、カット野菜を食べて少しでも歯ごたえがあれば、野菜の細胞は維持されているので、その内部の栄養もおいしさもちゃんと残っています。ただし、洗浄によって水溶性のビタミン等の栄養は一部失われるのは事実ですが、全部抜けてしまうことなどあり得ません。 以下のブログが参考になります。 http://d.hatena.ne.jp/doramao/20130815/1376540505 実際に洗浄殺菌によってどの程度栄養が失われるのか、茨城県工業技術センターの試験結果が以下にあります。 http://www.kougise.pref.ibaraki.jp/periodical/reseach/24/N24P044.pdf 水溶性の成分については、3割程度失われるようです。 そもそも、次亜塩素酸ソーダでの殺菌は有機物(野菜)の存在下では有効塩素濃度がどんどん低下してしまうため、あまり効果的な殺菌方法とは言えません。むしろ、適切な脱気包装の方が変色対策としては重要となります。以下にジアソ殺菌に対する反論ブログがありました。 http://lagtydog.hatenablog.com/entry/2014/02/12/145414 個人的には、全く次亜塩素酸ソーダを全く使わないというのは少し極端で、機械器具の殺菌を含め効果的に使用していく必要があると思います。

 

引用 060p [図表☆1]「食の安全」事件簿

食の安全事件簿として、16件が挙げられていますが、産地偽装や食材偽装が5件含まれています。食品業界全体としては、もちろんどちらも重要な問題です。成形肉の偽装のように安全性にも影響するものもあるため区分けは難しいのですが、通常の場合、偽装問題は直接安全性には影響しませんので分けて考える必要があります。

 

引用 061p こと食品に限っては、大量仕入れでは安くならないのです。

いくら大量仕入れといっても野菜の市場で突然交渉しても、それはムリな話というのは、その通りでしょう。しかし、その後に直接契約や物流過程見直し、年間契約で安価で安定した仕入れができるとも記述されています。つまり、「大量仕入れで安くなる」をウソであると、帰結するために条件の全く異なるスポット買いのケースと、購買数量を約束する年間契約のケースを意図的に混同して記述しています。両者は前提条件が違うので、それをもって「大量仕入れで安くなる」がウソ、とするのは無理があるでしょう。当然のことながら、安くなる場合もあります。ケースバイケースですね。

 

引用 085p ラベルは「使用量が多い順」記載。2番目に「植物性タンパク」がある点に注目。

このページに例示されているハンバーグの一括表示は著者の創作です。さすがにプロなので、一応ハンバーグとして成立するように原材料は選んでいるようです。しかし、著者の都合の良いように順番も内容も入れ替えることができるのに、2番目に植物性タンパクがある点に注目することに何の意味があるのでしょうか。やるのであれば、メーカー等を伏せて実物のラベル写真を提示すべきではないでしょうか。

 

引用 087p 唐揚げも「植物性タンパク」でカサ増しされていることがあります。 まず生の肉に「植物性タンパク」「リン酸塩」その他の調味料を注射してカサ増しします。 「植物性タンパク」は、肉が8割だとしたら2割ほど入ります。 その状態では、ドロドロでとても食べ物とは思えないようなシロモノです。

ちょっと日本語がおかしくなっていて分かりにくいですが、リン酸塩は水に溶かして注射できますが植物性タンパクは溶けないので注射はできません。だからこそ、かさ増しが出来るわけです。唐揚げの増量を植物性タンパクでやるのは無理があるでしょう。

ドロドロとかの表現から推察するに、唐揚げとチキンナゲットの製造工程を意図的に混同させようとしているように読めます。 唐揚げに対してどう使うのかはよく分かりませんが、植物性タンパクは自重の150%程度の水分を保持することができるので、いろいろな加工食品で離水防止や成形性の向上のために利用されています。長じて増量目的で配合されることがあるのも、また事実です。リン酸塩には保水性、結着性があるため食肉に注入すると肉汁を保持してジューシーな食感にすることができます。

しかし、著者が言うほど「植物性タンパク」も「リン酸塩」も万能ではありません。いくら保水力があると言っても、水分が多すぎれば次第に離水します。使えば使うほど増量出来るほど甘くはありません。そんな魔法のような添加物や素材はないのです。それに両者ともそれ自体に味があり、使用量が増えるとえぐ味を感じます。特に植物性タンパクは、舌触りが粉っぽくなります。著者はだから調味料を入れていると言いますが、それで誤魔化せるようなものではありません。なので、著者が言うような大量使用は通常考えられません。

 

引用 087p いま述べたように普通は肉の重量に対して50%ぐらいのところを、この店のものは100%ぐらいは混ぜていたと思います。

植物性タンパクの使用量に関する記述ですが、前述の通りあり得ません。合理的なチェーンならば、こんな粉っぽいものをこねくり回すより、少しでも肉を安く仕入れるルートを確立することに注力するでしょうね。

 

引用 088p 冷凍食品の裏ラベル(原材料表示)を見て、鶏肉以外に「植物性タンパク」「大豆タンパク」などと書かれていれば、それはカサ増し商品です。

ぜひ、みなさんもスーパーの冷凍食品売り場で実際に確認して頂ければ事実と異なることが分かるでしょう。著者の言うようなカサ増し目的であれば、リン酸塩や植物性タンパクの表記は上位に来るはずですが、多分そのような製品は見つからないでしょう。そもそも、配合されている製品の方が少数派であると思います。なので、表記があったとしてもカサ増し目的ではなく、本来の離水防止目的であることがほとんどでしょう。

 

引用 衣をつけたものをいったん冷凍します。そして凍った状態でまた衣を通すと、かなり大きくなります。2回づけは普通で、3回づけする店もあります。

どうしてこんなに簡単にウソだとバレることを書くのか理解に苦しみます。確かに多少、衣を厚めにしているお店はあるかも知れませんが、一体どのチェーンのどの店舗でこんな面倒くさいことをやるのでしょうか。仮にやっているお店があったとして、衣が厚くなるだけで一切おいしくはなりませんし、一口食べれば分かることです。つまり、売り上げにも利益にも貢献しない無駄な作業なので、やるチェーンなどないでしょう。

 

引用 091p たとえば、チェーン店でも人気メニューのひとつであるドリア。安くて大勢の人が注文していますが、そこでよく使われるのは「チーズフード」というニセモノチーズです。

前述の通り、チーズフードなるものは非常にマイナーな存在で外食産業にはびこっているとは考えられません。そもそもドリアとは、ピラフ等の米飯の上にベシャメルソース(ホワイトソース)をかけてオーブンで焼いた料理です。チーズがトッピングされるケースは多いと思いますが、チーズがなくても料理としてドリアは成立します。 なのに、ここでドリアを出した理由はなんでしょうか。 「小麦粉とバター、牛乳で作るホワイトソース」と「チーズを小麦粉で薄めたチーズフード」。(この後099pでチーズフードを指して、小麦粉で薄めたニセモノチーズと表現されています)この両者を混同させようとする意図が見えるのは私の邪推でしょうか。

 

引用 098p ハンバーグしかり、チーズしかり。こんなニセモノ食品がはびこっているのは世界中を見渡しても日本だけです。

食品の偽装は何も日本だけの問題ではありません。たとえば、オリーブオイルでは古くから偽和(他の油の混入による偽装)が行われていました。現在でもオリーブオイルの生産量と販売量を比較すれば販売量が「なぜか」上回るはずです。それ以外にも、2013年にヨーロッパで牛肉製品に馬肉が混入していた事件がありました。それに本当に日本だけの問題であれば、もっと輸入品を使うべき、となるはずですが、著者は輸入品も強く否定しています。単に自説に都合の悪いものをこき下ろしているだけのような…

 

引用 101p そもそも、N君が食べたそばには、そば粉が1~2割程度しか入っていません。残りの8~9割は、そばなのに、なんと小麦粉が入っているのです。

残念ながら、そば粉よりも小麦粉が多く配合された生そばが業務用として多く使用されていることは事実と思います。ただし、著者の言う通り2割以下の配合であるのかは、私も確証がありません。著者も断言はすれど、根拠は示していないので取材等できちんと明らかにしてもらいたいと思います。

 

引用 101p そばは本来、そば粉100%で打つものでした。

本当でしょうか。もちろん、最初はそば粉のみで作られていたと思いますが、そば粉はそれ自身が結着する成分に乏しいので、つなぎとして小麦粉を入れるのは極めて合理的な事だと思います。そばの歴史には詳しくないですが、江戸時代には、既に二八そばはあったようです。小麦粉由来のグルテンの結着性や弾力が製造のし易さと食感や喉ごしをそばに付与できると言う点で、二八そばの方が食品としての完成度は高いと個人的には考えます。もちろん、十割そばをおいしく食べさせてくれる名店があることは事実ですが、それはまた別の(次元の)話です、念のため。

 

引用 101p じつはそばを乾麺の状態で売るときは、「最低そば粉を3割は入れなくてはいけない」と法律で定められています。

著者の説明ではまったく不十分なので、そばの表示について以下に整理します。 まず、著者が批判しているチェーンを含む一般飲食店で提供されるそばについては、規制はありません。5割そばを10割そばとして提供した場合には、景表法違反になり得ますが1割そばでも2割そばでも、そばとして提供することができます。著者が指摘ているのはこの点でしょう。

 

スーパー等で市販される乾麺と生めんには規制があり、乾麺については「乾めん類の日本農林規格」及び「乾めん類品質表示基準」が定められています。生めんについては、法律ではありませんが「生めん類の表示に関する公正競争規約」が全国製麺協同組合連合会によって定められています。 「乾めん類の日本農林規格」では、乾めん類のうち、そば粉を使用したものでその配合が40%以上で標準、50%以上で上級となります。 「乾めん類品質表示基準」では、そば粉の割合が1割未満の場合「1割未満」、3割未満の場合「2割」であることを表記する必要があります。逆に3割以上であればそば粉の割合表記は必要ありません。

 

「生めん類の表示に関する公正競争規約」でのそばは、原料粉の30%以上そば粉を使用している必要があります。ただし、これは主原料であるそばと小麦についてのみの場合。実際は副原料としてグルテンやでん粉を20%加えることができるので、30÷120で25%そば粉が入っていればいいことになります。

 

引用 106p 現在、日本の食料自給率はカロリーベースで4割を切っています。 単純に考えると6割は輸入品なわけです。

単純すぎて話になりません。著者は中国産野菜を問題にしているようなのすが、野菜の自給率は79%です。 http://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/pdf/himoku.pdf カロリーベースで自給率を計算する時の落とし穴として、カロリーがほとんどない野菜がごっそり抜け落ちてしまう点があります。プロならば…以下略。

 

引用 111p 中国からの輸入野菜に日本では使用禁止の農薬が残存していた事件が起こってからというもの、ますます避けたがる人が増えました。最近では中国製加工食品の危険を訴える報道も多くなっています。

中国野菜を避けたいと考える消費者増えたのは事実と思います。しかし、危険を訴える報道が多くなっているのはどうでしょうか。この点に関しても事実と思いますが、ポイントは中国野菜の危険性が高くなった、とは「巧妙にも」書いていない所です。中国からの輸入は件数、重量とも多いので、違反件数自体は多くなりがちですが、違反率としてみると非常に低い数値です。それがよく分かる解説はこちら http://www.foocom.net/column/editor/8925/ 著者に限らないことですが、チュウゴクサンガーと言っている時点で、その情報はほぼデタラメであることがほとんどです。

 

引用 130p 野菜は洗浄・カットされた状態で入ってきます。「カット野菜」と呼ばれるものです。 カットしてから使用するまでに時間がかかるので、その間野菜が傷まないように「次亜塩素酸ソーダ」の液で十分に洗浄・殺菌する必要があります。

引用 131pファミレスのサラダに野菜本来の味が感じられないのは、「次亜塩素酸ソーダ」で何度も洗浄され、おいしさも栄養も抜けてしまったカット野菜を使っているからです。

前述の通りです。著者がこれほどジアソーを悪者にしたいのは、名前だけは知られているけれど、見たことない人達を煽るのに丁度いいと考えたからでしょうか。

 

引用 133p たいていの回転寿司では、おいしさの抜けてしまった刺身を食べさせるために、醤油に「調味料(アミノ酸等)」などを入れて普通より濃い味付けにしています。

私の知る限りでは、たいていの回転寿司では、調味した醤油を使用している場合、「さしみ醤油」や「だし醤油」といった表示が醤油差しになされているはずです。

 

引用 133p 付け皿に大量に醤油が注がれるように、わざと注ぎ口が大きい醤油差しが使われていることがよくあります。

ここまで来ると笑うしかありません。悪口のネタが尽きたのでしょうか。味を濃くした醤油をたくさん使われてしまったら、お店にとってはコスト面でマイナスではないのでしょうか。醤油を使わないお客さんはまずいないし、お客様にとってはタダですから。皆さんも塩分の摂りすぎにならないよう気を付けましょう。

 

引用 136p 衣がついて運ばれてきたエビフライ、何度も洗われて運ばれてきたエビは本来のおいしさは抜けてしまっています。

なんとか不安を煽ろうと必死ですが、単に海外の工場で加工され輸入されただけです。加工によっておいしさが多少落ちるという話なら分かるのですが、抜けてしまうわけではないのはカット野菜と同様です。著者の言うおいしさとは、食材に宿っていた霊魂のようなものを指しているのではないかと思えてきました。

 

引用 138p 外食店のコロッケは食べると、妙に甘みを感じることがありませんか?あれは砂糖がかなり入っているからです。なぜ砂糖をたくさんいれるのか。それは砂糖を入れると凍結耐性がよくなり、変質が少なくなり、結果として日持ちがよくなるからです。

結果として、日持ちがよくなるなら良いことなのでは?コロッケを食べるお客様にとっては、店内調理であろうが冷凍品であろうが、おいしければ、そんなことはどうでもいいのです。 ちなみに確かに砂糖を添加することで冷凍耐性は良くなりますが、甘みが強く出過ぎる欠点があります。なので、普通は甘みがあまりでないように糖アルコール等の液糖を配合します。なので、甘くない冷凍品もちゃんとあります。まさか、プロがご存じないとは思えませんが…。

 

引用 151p とくに多用されるのが砂糖と油です。だからよく店で出てくる小鉢の切り干し大根などは、どこも味が濃くて甘いのです。もちろん、「保存料」などの添加物も多く使われます。

確かに、お通しの小鉢に限らず外食店の味付けは濃くなりがちです。しかし、食品安全のプロにとっては常識ですが、味を濃くすると水分活性が低下して、それだけで日持ちは向上します。わざわざ保存料を入れる必要はあまりないでしょう。それとも、保存料なしで腐った製品を提供した方がいいと考えているのでしょうか。

 

引用 157p しかし、国内に失業者があふれているのに、わざわざ「雇用機会」を東南アジアに譲り渡しているという現状はおかしくないでしょうか。

日本は失業者であふれておりません。ここ数年の失業率は約4%で国際的にみても低い水準です。北米で約7%、フランスで約9%、イタリアでは12%を超えています。 そもそも、仮に国内に失業者があふれていたとしても、食品会社を含めて企業の目的は永続的に利益をあげることです。東南アジアで生産することが合理的でであればそうします。企業は国内の雇用を維持するために存在しているわけではありません。国内の雇用を重視している企業は、そうすることが最終的に企業にとってプラスになると考えているからそうしているだけです。著者は食品業界のプロなので、経済学には疎いのは仕方がないですね。

 

引用 163p これはたぶん昨日炊いた古いご飯だね。下手をすれば、おとといの可能性もある。ご飯が渇いているし、少しすっぱくなっている。

少し考えればそんなことが、あるわけがないのが分かるはずです。おととい炊いたご飯がそれほど残っているのであれば、そのお店は3日分も一度に炊くのでしょうか。それを一体どこに保管していたのでしょうか。業務用の炊飯器が10個とか20個用意して保温するつもりでしょうか。普通の飲食店でおとといのご飯をだすのは事実上不可能だと思います。せいぜい前日の最後に炊いた1釜分が残る位ですが、普通はそのくらいの量であればまかないで店員が食べる分で使ってしまうでしょうね。

 

引用 165p 油の管理ができていないということは、ゴキブリを招く要因にもなりますし、

油の管理ができていないということは、その他の衛生管理も出来ていない可能性が高いので、ゴキブリの侵入、増殖を見逃している可能性も高い、とうことは言えます。しかし、油の管理とゴキブリを招くことは直接の関連はありません。

 

引用 165p 酸化した油は何より体に悪い。よく外食したあと下痢をするという話しを聞きますが、あれはほとんどが油が原因だと考えていいと思います。

外食のあと下痢云々は、少なくとも私の観測範囲では聞いたことがありません。揚げ油については、「弁当及びそうざいの衛生規範」が定められており、酸価2.5未満での使用が求められています。実際の使用実態に関しても以下の通りで、 http://www.pref.hiroshima.lg.jp/site/syokuhinfaq/faq42.html 外食後の下痢の原因が油という根拠はありません。

 

引用 166p まったくスパゲッティの味がしないね。小麦粉の素材がよくない。ーそれにしても運んでくるのが早いですよね。注文して10分も経たずにでてきましたよ。

著者がこき下ろしている某大手イタリアン・チェーン店は、恐らくサイゼリヤでしょう。私は仕事柄、サイゼリヤがイタリアのどこのサプライヤーからスパゲッティを仕入れているか知っています。なぜならそのサプライヤーと私の会社で取引があるので。

実名をあげるのは控えますが、その企業はパスタ発祥の地、カンパーニャ州のグラニャーノにある老舗企業です。創業は1820年でイタリア産小麦を使用したパスタを現在も製造しています。さて、著者はこのスパゲッティを指して小麦の素材がよくないと指摘していますが、一体普段どんなパスタを召し上がっているのでしょう。 さらに付け加えておくと、サイゼリヤが使用しているのは直径1.7mmのスパゲッティで、標準ゆで時間は7分間です。通常はソースとからめる時間を考慮して6分30秒で茹でています。ペペロンチーノが10分足らずで提供されるのは、普通ですね。事前に茹でておくダブルクッキングは不要と思われます。もちろん、パスタ自体の品質が高く、コシが強いので店舗のオペレーションがしっかりしていれば、ダブルクッキングでもおいしく召し上がることができます。

引用 167p このドリアは、チーズとホワイトソースがひどいね。 チーズの味がまったくしない、チーズのうまみも風味も何もないでしょ。

前述の通り、ホワイトソースがメインでチーズは中心部の少し焦げ目の付いているところにトッピングされているだけです。チーズフードの件がデタラメであることは既に指摘しました。しかも、最初は小麦粉で薄めたチーズとしていたのに、今度は水で薄めてリン酸塩になっています。チーズフードに実体がないからこういう矛盾が生じます。

引用 174p 普通につくれば、ワッフルに「植物性タンパク」が入るわけがないのです。 本来、小麦粉と卵と砂糖でつくるお菓子に、なぜ「植物性タンパク」や添加物を入れる必要があるのか。 要するに安ければいいのです。

その場で焼いて、その場で食べるのであれば小麦粉、卵、砂糖でokです。しかし、その後容器包装に入れ、店頭に置かれ、消費期限なり、賞味期限の間、品質と安全性を保持する必要がある場合には、それ意外にも配合すべき原材料や添加物があることは自明です。一度家庭で作るレベルのおにぎりをコンビニの店頭で売ってみればいいでしょう。すぐに食中毒が起きて営業停止に追い込まれます。因みに、安さのためだけであれば、小麦粉、卵、砂糖だけで作るのが一番安いはずです。

 

引用 177p 魚は焼くと縮むでしょう。だから歩留まりをよくするためには、なるべく縮まないほうがいい。そのために「リン酸塩」を使うところもある。

著者お得意のリン酸塩ネタですが、魚にどうやって使うのでしょう。食肉と同様にインジェクションしているということでしょうか。この部分を具体的に書いていないので著者も未確認のことを書いている可能性があります。技術的には可能ですが、魚でのインジェクションはあまり聞かないですね。なぜなら、魚の場合は鮮度を優先する方がおいしく提供できるケースが多いはずなので。

 

引用 p 178pいや、冷凍肉を使ったトンカツと食べ比べればわかるよ。食感が違うから。豚肉は凍らせると、筋繊維に氷ができてそれが大きくなって、最後に切れてしまう。

プロである著者には不都合な事実ですが、急速凍結を適切に行うと、切り立てと同じ食感が味わえます。食べたら分かるはず。(著者風)

 

引用 197p 水道水がまずい。最近は東京の水道水もおいしくなってきているから、たぶんこのビルの受水槽の問題だと思う。

味噌汁が角が立っていておいしくないことの指摘ですが、仮に残留塩素濃度が高めだったとしても、味噌汁であれば加熱、加温によって塩素はきれいさっぱり揮発します。

 

引用 199p イカがわかりやすいと思う。ここのイカにはきちんと表面に包丁を入れて食べやすくしてあるでしょ。

業務用のスライサーに飾り切り用のユニットくらい付けられるでしょう。そこまでやらずとも、こんな製品もあります。http://www.hiranojp.com/lineup/product/070.html 著者はイカで回転寿司のよしあしを測れると豪語してるのですが、本当でしょうか。東洋経済のweb記事では、アニサキス対策としても飾り切りが必要との記述があるようですが、私の立場から言わせて頂ければ、本当にアニサキス対策が必要ならば、鮮度を犠牲にしてでも冷凍原料を使うべきですね。私なら飾り切りさえすれば大丈夫、なんて言う寿司職人さんのギャンブルには断じてつきあえません。以下、アニサキス症の実際についてよく分かるまとめです。 http://togetter.com/li/662456

 

まじめに一つ一つおかしな記述を指摘しようと思ったのですが、まともな記述の方が少なくて正直なところ大分はしょってしまいました。まさか全編通してウソ、デタラメがこれほど散りばめられているとは思いませんでした。

 

著者である河岸氏とはメールマガジンTwitter上で何度がやりとりを実際にしたことがあります。プロを自称するだけあって、非常に広い経験と知識をお持ちの方でした。 しかし、東日本大震災を契機に変わられてしまった、と私は感じています。

 

安部司氏の様に一般の読者の不安と恐怖を煽ることで書籍の売り上げとPVが稼げることを知ってしまったのでしょうか。だとしたら、残念でなりません。

 

 

食品工場の点検と監査(改訂版) (ビジュアル図解)

食品工場の点検と監査(改訂版) (ビジュアル図解)

  • 作者:河岸 宏和
  • 発売日: 2016/09/10
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

例えば、上記の著書は食品の品質管理に携わる人間にしか売れなかったと思いますが、すばらしい内容の本です。私自身、購入しましたし、経験の浅い後輩に購入を勧めもしました。これだけの本を書ける方が、単なるデマ拡散者に成り下がってしまった現状がツライのです。どうか、こちら側に戻ってきて頂ければと切に願っております。