食品の安全とリスクのはなし

食品安全に関することやリスクコミュニケーションについて考えていることを書いています。

チーズの青いシミはカビ?

はてなに引越したので、少し前に書いたエントリの再投稿です。

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ずいぶん、長いことブログの更新をサボっていたけれど、久しぶりにえ今回はチーズ製品で時々起こるクレームです。


通常、チーズの水分は30~35%程度。冷蔵保管していても開封後4、5日もすると残念ながらカビは生えることがあります。


ところが、開封前にもかかわらずチーズの表面に青から緑色の斑点が現れることがあります。

こんな感じで、パッと見はカビですし、拡大して観察すると毒々しいほど青かったりします。

約200倍位に拡大するとこんな感じです。カビなどではなく、明らかにチーズ自体が青く変色しています。


この現象は実は、すべてのチーズで起こるわけではなく、伝統的な製法ということで銅釜を使用して製造しているチーズで特異的な現象となります。

イタリアのグラナ・パダーノがそうなのですが、製造には銅釜や独特な形状のスピノーが使われます。そのため、チーズには銅イオンがある程度含まれます。


その後、ホールの状態からカットされた断面やパウダーされると空気に触れて酸化することで水酸化炭酸銅、いわゆる緑青となります。これがこの青いシミの正体です。


この緑青、その毒々しい青色と足尾銅山鉱毒事件のイメージから長い間(一部の人たちは今も?)猛毒として信じられていましたが、現在では毒性がないことが確認されていて、1984年8月6日には厚生省(当時)から無害に等しいことが発表されています。


この問題、伝統的な製法のチーズだけで起こって、最新式のオールステンレスの設備で作ったチーズでは起こりません。なんとも困ったことです。


因みに、皆さんの家庭の冷蔵庫にもありそうな緑色のパッケージの粉チーズは、水分約15%なので湿気に注意して冷蔵してあればカビも発生しません。

[食品添加物]酸化防止剤

はてなに引越したので、過去に書いたエントリの再投稿です。

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先日、お客様電話での問い合わせでオタクの豆のパックを買ったが酸化防止剤とか入っているけど本当に安全なのか、というのがありました。よくあるご質問です。

 

 もちろんまったく問題ないですよ、とお答えします。すると、だって酸化防止剤や保存料が体にいい訳ないじゃないですが!!アスコルビン酸なんて!!、と食い下がられることがよくあります。まあ、そう思っているから電話してくる訳ですので…。

 

 じゃあ食べなきゃいいんじゃね?

 

(と正直なところ、心の中で突っ込みは入れますが) さすがに、そうは言えないので表記は「アスコルビン酸」ですがビタミンCと同じものなので、そんなにご心配はないと思いますよ、と申し上げます。 

 

すると、この瞬間お客様の声の疑心暗鬼の塊から安堵に一転します。明らかに空気が変わります。「そ、そ、そ、そうなんですか?!ビタミンCなんですか???」みたい感じです。

 

酸化防止剤の心配をするお客様は、大体同じような反応をしてくれます。たまにそれでも納得しない方がいますが、その場合は似たような話を2~3周する覚悟が必要になります。

 

正直なところ、保存料については悪いイメージが定着しすぎてほとんどの場合、どんな説明も受け入れてもらえる余地はないと感じています。というより、保存料については、説明すらさせてもらえないケースがほとんど。

 

でも、酸化防止剤まで同一視するはどうかと思います。 しかし、酸化防止剤・保存料はなぜかセットで危険な薬品、ということになっている、らしい。いや、多分両者の区別はなく、同一視しているのでしょう。

 

酸化防止剤と保存料は東京都HP福祉保健局によると以下の通り、


酸化防止剤 食品を変質させたり劣化させたりする原因として、微生物による腐敗が良く知られていますが、空気中の酸素によって起こる食品の酸化も食品衛生上、非常に重要な問題の一つです。  特に油脂類が酸化されると色や風味が悪くなるばかりでなく、酸化によって生じた過酸化物による消化器障害を引き起こすこともあります。また、褐変や退色、栄養価の低下の原因にもなります。  こうした酸化による品質の低下を防止するのが酸化防止剤です。酸化防止剤は、食品成分に代わって自身が酸化されることによって、食品の酸化を防ぐ作用を示します。

 

・保存料 保存料は、食品の腐敗や変敗の原因となる微生物の増殖を抑制し、保存性を高める添加物です。微生物を殺すことを目的とした殺菌剤とは異なります。


 

食品衛生や開発、品管に携わっていれば、その違いは明らかですが一般消費者には分かりにくいのかも知れません。 大雑把に言うと、酸化防止剤の役割は食品のおいしさが失われていく速度を落とすことで、保存料は食品が腐るのを遅らせるものということ。つまり、酸化防止剤をいくら配合しても食品の腐敗は防ぐことができません。この腐敗と品質劣化の違いが一般消費者には理解されていないように思います。

 

前日に飲み残したワインやビールを口にすると少し酸っぱい。テーブルに置いておいたしょうゆが黒くなって香りが悪くなる。何度か揚げ物に利用した油から少しすえた臭いがする。こういった現象は、いわゆる食品の酸化によって引き起こされます。酸化防止剤は、こういった事を完全に防止できる訳ではありませんが、その速度を落としてくれます。食材の代わりに自分が酸化されることで酸化を防ぐイメージです。

 

それに対して腐敗は生肉の表面がヌルっとして、ネパーっと糸引いたりとか、パンや餅にカビ生えたりです。もっと言ってしまうと、酸化防止剤をどんなに山盛り配合しても腐敗を防ぐことは出来ません。

 

こう書くと簡単と思うのですが、なぜか誤解の多い部分です。

 

実際に使用されているのは物質としては、ビタミンCは水溶性なので、水分を含む多くの食品に配合されています。油脂類には脂溶性ビタミンのビタミンEが使用されることが多いかと思います。ワインには亜硫酸塩が使用されています。少し変わったものだとローズマリー抽出物でしょうか。無着色のわさびを作ろうと、以前すごく昔にテストしたことがあります。単価が高いのでその時は断念しましたが…。

 

こうしてみると、使用されている物質は一般消費者にもなじみのあるものが多く、酸化防止剤が危険と思われてしまう理由がよく分からないのですが、ひとつ心当たりがありました。BHAが一役買っているのではないかと思われます。 酸化防止剤で検索をすると添加物を危険視している消費者団体等のHPでBHA(ブチルヒドロキシアニソール)は、BHT(ブチルヒドロキシトルエン)と共によく槍玉にあがっています。過去に発がん性の疑いがあったことが、攻撃理由のようです。話が長くなってしまうので、今回はその点には触れませんが、その後の追加調査で発がん性は認められず、アメリFDA、ヨーロッパEFSAには酸化防止剤として認可を受けています。

 

消費者団体の方々は、声高に添加物の危険性を訴えますが、サッカリンアスパルテーム等、その後の追加調査で危険性が否定されているものは数多くあります。ただ、残念ながら多くの消費者団体の発信する情報には、そういったことが反映されていないようです。

 

ところで、実際に食品にどの位の量を添加するのかというと、油脂類にビタミンEを添加する場合は0.05%が目安になります。ビタミンCは0.1%位でしょうか。食品が腐らないよう、山盛り入れているのではないかと一般の方は考えているかも知れませんが、添加物もタダではないのでコスト的に入れられる量はおのずと決まってきます。ビタミンEなんて、私が開発の仕事をしていた当時キロ単価が4000円位だったはずです。キロ単価200円位の食用油に1%も配合したら、それだけで40円、20% のコストアップで、正直あり得ません。

 

個人的には酸化防止剤を含め食品添加物は、膨大な量の安全性確認のための試験、調査が行われていますので心配はありません。安心して召し上がって頂けければと思います。

 

もちろん、不安があれば納得いくまで調べることをお勧め致しますが、お客様電話にはかけずに、できれば自力で…。いえ、ウソですw どうぞご遠慮なくお電話ください。

 

 

 

180125 文末表現の統一と補足説明の追記をしました。