食品の安全とリスクのはなし

食品安全に関することやリスクコミュニケーションについて考えていることを書いています。

フルーツブランデーのメタノール濃度

市販されているブランデーには飲用と製菓用の2種類があることをご存じでしょうか。裏ラベルに「ブランデー」または「ブランデー(製菓用)」の表記があり区別されています。

 

一般的には、製菓用は低級グレード品であるかの様に認識されているケースが多いのですが、両者の違いはメタノールの含有量になります。食品衛生法において、アルコール飲料中のメタノール濃度には基準が定められています。基準値は1mg/ml(1000ppm=0.1%)未満となります。

 

飲用として輸入販売する場合は、メタノール濃度が0.1%未満であることが確認されている必要があります。こうした確認を行っていない、又は0.1%を超えることが予め判っている場合にはラベルに「ブランデー(製菓用)」と表記する必要があります。

 

製菓用として香味付け等に使用する限りにおいては、摂取量が少ないため健康影響はないであろう、ということです。でも、これ少し考えれば分かりますが完全に建前です。実際には製菓用のブランデーが酒販店やレストランに卸されており、飲用されています。

 

でも、今後はこうしたことは出来なくなるかも知れません。先日、製菓用のブランデーを飲用として提供していたあるホテルで、この事が社内的に問題になったそうです。ホテルからは納入業者に対して問題点の指摘と、改めて飲用適のブランデーの引き合いがあったそうです。しかし、最終的には飲用適を保証することができないため、この納入業者はこのホテルだけでなく、客先在庫にある製菓用ブランデー製品の回収を現在行っています。

 

業界的には昔から行われていた慣習なのだと思いますが、概ねこの納入業者の判断は私自身も妥当だと思いました。ただ、これまでの実績から健康被害は考えられないので、回収まで必要かは難しい問題ですね。大企業の系列企業としては、コンプライアンス上やむなしとは思います。

 

実は私の勤務する会社でもグラッパ(品目はブランデー)を取り扱っており、同じ問題を抱えております。全社的な方針はまだ決まっておりませんが、今後はメタノール濃度の検査を毎回確実に行って適合確認できる製品を除いては、製菓用であることを改めてアナウンスしての販売になるでしょう。事実上の販売自粛になるので、元々取扱量が少ないグラッパやブランデーは、ほとんどの製品で在庫がなくなり次第、終売になってしまうかも知れません。

 

あまり品質上の問題が起こらない酒類にあって、さらにマイナーなグラッパについてはあまり注意を払っていなかったため、対応が後手後手なっており私自身ちょっと反省をしています。

 

ところでなぜ、ブランデーやグラッパメタノールが含まれているのかというと、原料となる果実類に含まれるペクチンに由来します。ペクチンのメトキシ基が、果実が熟する過程で生合成するペクチンエステラーゼによって加水分解されることで生成します。

 

エチルアルコールメタノールは共沸化合物であるため、単式蒸留では分離除去を行うことができません。なので、フルーツを原料とする蒸留酒ではメタノール濃度が高くなってしまうのです。それに対して穀物を原料とするウイスキー等ではこうしたメタノール濃度の上昇はありません。

 

その毒性はかなり高くて、日本でも戦後粗悪な密造酒に混入していたメタノールで死者がでていました。最近でも海外で同様に密造酒によるメタノール中毒での死亡事故が度々起こっています。ヒトでの致死量は個人差が大きいものの30~100ml以上で10ml程度で失明する恐れがあるようです。(http://jsct.umin.jp/page051.html )

 

グラス1杯を100ml程度とすると、0.1ml程度メタノール摂取になるということで、1杯飲むだけで失明の恐れのある10mlの100分の1になってしまう訳です。イタリアでは普通に飲まれているとはいえ、やはり飲用でないものを飲むのはちょっと危なっかしいく感じますね。

 

追記

関連通知:

昭和29年7月15日付け衛食第182号「有毒飲食物等取締令の廃止について」及び、昭和60年1月31日付け衛検第42号「酒精飲料中のメタノール含有量について」

 

イタリアのサプライヤーから、イタリアのメタノール基準は4400ppmであることを教えてもらいました。